森保監督がかつてやっていた3バック いわゆる”ミシャ式”
日本対トリニダードトバゴで森保監督は3バックを試験的に導入し、スコアレスドローだったこともありネットでやたらと叩かれています。

実は代表監督就任当初も「森保は3バックをやるつもりに違いない」と(どちらかといえばネガティブな意味で)騒がれていましたが、結局親善試合やアジアカップではごく標準的な4-2-3-1(4-4-2)でした。アジア大会では3バックでしたが。

ただ、トリニダードトバゴ戦やアジア大会で見せた3バックが広島時代の”ミシャ式”と同じかというとなんとも言えません。同じことをやろうとしても練度の低さから再現できていないのか、そもそも違うことをやろうとしているのか。監督に聞いてみないと分からないでしょう…

おそらく次の親善試合も3バックを試すでしょうから、ここで比較のために広島時代の3バックを簡単に振り返りたいと思います。

もっともガチな解説は10年近く前からあちこちでなされていますので、ここでは簡単に。

ミシャ式3バックの基本
ミシャ式の特徴は攻撃と守備でフォーメーションが変化することです。「そんなの常識だろ」と言われそうで確かにその通りですが、ミシャ式は変化の幅が尋常でないのと『相手に関わらずいつもそうする』というのが面白いところです。

メンバー紹介時は3-4-2-1ですが、試合中このフォメになっている時間はほぼありません。

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まず攻撃時は4-1-5に変化。5トップになります。

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なんでわざわざ変化するの?の理由の一つは、パス能力が高くゲームを作れる選手をプレスの弱い位置に集めてボールを支配することです。そういうCBは世界的に見ても多くないですが、もともとパスの上手い中盤の選手をCBまで下げて能力を存分に発揮してもらうわけです。
もう一つは4バック守備の弱点を突くため5トップ化する必要があるからです。

また、広島時代後期は4-1ではなく3-2でセットしていました。おそらく相手のミシャ式対策への再対策だと思います。


守備時はWBが最終ラインまで引き、シャドーが中盤サイドまで下りて5-4-1になります。

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組み上がってしまえば固いです。うまくペースを握れない場合はこれで耐えしのぎ、相手の攻め疲れを狙って逆襲も得意でした。基本は撤退なのでカウンターやりづらそうですし実際機会はそう多くないんですが、実はカウンター設計はかなりしっかりしていました(後述)。

攻撃編 4-4-2の欠陥を突く
守備時4-4-2になるチームは多く、欧州でも日本でも各国代表でもよく見ます。合理的なシステムなのでスターがいなくてもそこそこ戦えて、採用チームも多いので代表でも手っ取り早く形にしやすいからでしょう。特に女子の代表チームはほぼこれです。また、「奇跡のチーム」レスターも典型的な4-4-2でした。

で、ミシャ式はこの4-4-2守備の攻略がやたら得意です。

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まず5トップのため最終ラインで数的優位になっています。で、5トップは相手の中間にポジショニングします。
攻め方は大きく2つで、中央で縦パスを受けて崩すかサイドで1対1か。

CFと2シャドーは上下動やポジションチェンジを繰り返し、空いた選手にボランチから縦パスが入ります。相手はどこまでついていくかの判断を常に迫られることと、DHは背後から下りてくる選手を捕まえづらいのでたいてい誰かが空きます。

それを避けるため相手が中央を締めると、サイドのWBに振って崩します。このWBは守備力よりも攻撃力重視の選手起用が多く、1対1を制してクロスや、シャドーと連携してサイドを崩すのがメインタスクでした(シャドーがSBを引き付けてWBが出るか、またはその逆とか)。

さらに、パスの出し手が引いた位置に3人いて数的優位であり、ここにプレスにいくと中央が空く、いざとなればSBやGKからもボールが出てくる、引いて固まるとCBが運ぶドリブルをしてくる…と、必ず攻め手があるのがミシャ式の強みでした。

このようにミシャ式はあまりに特徴的なため、相手の方がスター選手揃いだったとしてもミシャ式にはある程度対策せざるをえない(普段どおりのやり方が出来ない)、対策しないと痛い目にあうかも…という強力なメリットがあります。

また前述の通り、後期は3-2ビルドアップが多かったです。移動ポジションを減らし中央を固めることで被カウンター耐性を上げるためだと思います。日本代表では必ず3-2ですね。

守備編 引いて迎撃守備とカウンター
このシステムの発明者である”ミシャ”ペトロビッチ監督は守備の練習をしなかったそうです。ものの例えではなく本当にやらなかったそうです。
森保監督は守備を整備しました。具体的には5-4-1の徹底と、組み上がったときのCB前進迎撃、そしてフォメ移行時間を稼ぐためのシャドーの動きの整理です。

5-4-1は組み上がってしまえば中央は相当固く、サイドに振られても5バックの横幅とカバーで対処、さらに曖昧なポジショニングをとる相手はCBが積極的に迎撃に出ます。
5バックにしているのはCBが出てもまだ人数に余裕があるからです。

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問題は組み上がる前、特にWBは長距離を移動するので戻る時間を稼がなくてはいけません。
この時2シャドーの動きがポイントで、2シャドーはまず相手に中央を使われないようポジションをとってサイドに誘導し、ディレイ守備で時間を稼ぎながらサイドへ移動、最終的にWBへ受け渡す。

攻撃時に中盤を意図的に空けているので、被カウンター時にいかにそこを使わせないかが重要で、そのための2シャドーのポジション移行タイミングが鍵を握ります。ここの理解度が低い選手はミシャ式では使いにくいでしょう。

基本的に引いて守るのでこちらが攻めるときに遅くなりそうですが、ミシャ式は前述の通りビルドアップに優れているので攻め手に困ることは少なく、さらにカウンターでも持ちネタがありました。

具体的には相手の意図を逆手に取ります。相手は5-4-1の2DHや3CBを動かしてそのスペースを使いたいのですが、あえて釣り出されて最終ラインの迎撃とカバーリングでボール奪取、釣り出されて高い位置にいる選手に渡して速攻!というのをやっていました。

いつも狙えるわけではないですが、何回かやれば相手は警戒して攻めづらくなるという流れです。
こう見ると非常に合理的で、Jリーグを3度も制するなど実績も十分でした。

ただ、かなり長くやっていたので対策も発達し、加えて選手の移籍やコンディション低下などもあって有効性は失われていきました。ミシャ式対策については長くなるので別記事で書ければなぁと思います。

トリニダードトバゴ戦はミシャ式だったのか?
日本代表がミシャ式だったのかは、正直さっぱり分かりませんw
WBはさほど高い位置をとらず、2シャドーも連携しての裏抜けもなし。守備も5-4-1撤退してる場面はほぼ無し…というか、酒井宏樹がちょっと前に出た4バックの時間が多く、5バック化しても5-2-3みたいな形で守ってました。

これだと中盤横が使われ放題なんですが相手はあんまりやる気がなく(失礼)、基本は7人で守って前に残してある3人にカウンターを任せるという…。
プレスもかけてこないので、3バックビルドアップ関係なくボールが持ててしまう。
結局中島翔哉がいつもの動きで目立った、というだけでした。

分からないのは、それが練度不足のためなのか最初からの予定だったのか…。正直、森保監督はミシャ式を代表でやるつもりはあんまりなさそうな気がするんですけど。

森保監督は「身体能力の高い相手」を希望していたそうです。守備時に5バックで強力な相手にどこまで耐えられるか試したかったのかも知れません。相手が万全ならうってつけだったのでしょうが…。

ただ、いろいろ批判されていますが、日本代表にオプションが必要なのは間違いなくて(アジアカップで4-4-2守備をカタールの3バックでフルボッコされてますから)あれこれ試行錯誤しなくてはならない、だとするとこの親善試合くらいしか機会がないのも事実です。

多分次の試合も3バックをテストするでしょうから、まずは見守ってみるのが正しい姿勢かなぁとも思います。あれこれ批判するのは大きな大会のときでいいかなと。
そういう意味でキリンカップの2試合目は注目ですね。久保くんさんは出るのでしょうか…。

ミシャ式の弱点や対策についてはまたいずれ。


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